「みんな、タイムカードを切った後もサービス残業しているし、私も残業しないとなあ……」
ちょっと待ってください。
そのサービス残業、違法ではないですか。
使用者は、労働基準法上一定の残業に対し、残業代を支払う義務があります。
サービス残業について、弁護士が解説します。
サービス残業は労働基準法違反
俗にいう「サービス残業」とは、企業が不当に残業代を支払わずに、従業員に残業させることです。
サービス残業でいう「残業」とは、一般的に次のものを指します。
- 時間外労働……原則として1日8時間、1週40時間を超える労働
- 休日労働……原則として、週1回の法定休日における労働
- 深夜労働……原則として、22~5時の間の労働
労働基準法37条では、時間外労働、休日労働をさせた場合は、労働者に一定の割増賃金を支払うよう使用者に義務付けており、サービス残業が禁止されています。
労働基準法 第37条1項 (時間外労働・休日労働)
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
引用:労働基準法第37条1項|e-Gov法令検索
4項 (深夜労働)
使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
引用:労働基準法第37条4項|e-Gov法令検索
参考:労働基準法|e-Gov法令検索
参考:Q.法定労働時間と割増賃金について教えてください。|厚生労働省
(1)未払い残業代の請求期間は2年または3年
未払い残業代を請求する権利には時効があります。
すなわち、残業代は、請求しないまま一定期間が経過すると、会社側が時効を主張することで、残業代を請求する権利を失ってしまいます。
残業代の時効は次の通りです。なお、時効のカウントは、各残業代が支払われるべき日の翌日から始まります。
- 2020年3月31日までに支払日が到来する残業代→時効は2年
- 2020年4月1日以降に支払日が到来する残業代→時効は3年
このように、2020年3月支払い分までは残業代請求の時効は2年でした。
しかし、2020年4月1日、民法改正により、
「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき」時効によって消滅する(民法第166条1項1号)
と定められ、これまで職業別にばらばらに定められていた、5年を下回る短期消滅時効の規定が削除され、統一が図られました。(旧民法170~174条)。
この民法改正のタイミングに合わせて、残業代請求権については2020年4月支払い分以降については、時効期間が3年になりました。
残業代請求権も時効期間を5年にするべきではないかと審議がされていたものの、突如制度を大きく変えると企業にとって影響が大きくなることを懸念して、経過措置としてしばらくは時効期間が3年となっています。
そのため、将来的にはどこかのタイミングで、残業代請求権の時効も5年になると見られています。
最新の情報にご注意ください。
参考:未払賃金が請求できる期間などが延長されます。|厚生労働省
(2)未払い残業代の計算方法
未払い残業代の計算方法は次の通りです。
- 時間外労働
残業代=1時間あたりの基礎賃金×時間外労働の時間数×残業の種類に応じた割増率
- 休日労働
残業代=1時間あたりの基礎賃金×休日労働の時間数×残業の種類に応じた割増率
- 深夜労働
残業代=1時間あたりの基礎賃金×深夜労働の時間数×残業の種類に応じた割増率
割増率は基本的に次の通りです。
残業の種類 | 割増賃金が発生する条件(※1) | 割増率 | |
時間外労働 | 1日8時間・週40時間のいずれかを超えて労働。 (法定休日の労働時間は含まず。)(※2) | 時間外労働が月60時間までの部分 | 1.25倍以上 |
時間外労働が月60時間を超えた部分 | 1.5倍以上(※3) | ||
深夜労働 | 22~5時の間の労働 | 1.25倍以上 | |
休日労働 | 法定休日の労働 | 1.35倍以上 | |
重複する部分 | 時間外労働が0時間を超えて月60時間までの部分と、深夜労働が重複する部分 | 1.5倍以上 | |
時間外労働が月60時間を超えた部分と、深夜労働が重複する部分 | 1.75倍以上 (※4) | ||
法定休日に深夜労働した部分 | 1.6倍以上 |
※1 残業時間として認められるためには、「会社の指示によって労働させられた」ことが必要です。
※2 時間外労働の例外
常時10人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業(映画の製作は除く)、保険衛生業、接客業については、週44時間を超えた労働
※3 次に該当する企業(中小企業、以下同じ)は、2023年3月末までは、最低の割増率は1.25倍となります。
- 小売業:資本金5000万円以下または常時使用する労働者が50人以下
- サービス業:資本金5000万円以下または常時使用する労働者が100人以下
- 卸売業:資本金1億円以下または常時使用する労働者が100人以下
- その他:資本金3億円以下または常時使用する労働者が300人以下
※4 中小企業では2023年3月末までは、最低の割増率は1.5倍となります。
例えば、1時間あたりの基礎賃金1000円、所定労働時間9~18時(実働8時間)の会社において、9~19時(実働9時間)まで働いたとします(他の時間外労働はないことを前提とします)。
その場合、割増賃金は、
1000円×1.25×1時間=1250円となります。
これもサービス残業?よくある8つのケース
残業代が正しく支払われていないサービス残業のケースを紹介します。
(1)「残業代は出ない」と言われるが、残業させられる
上司などから「うちの会社は残業代が出ないから」などと言われて、サービス残業をさせられているケースがあります。
そういった口頭での「残業代は出ない」は契約書に記載してあったりするのではなく、ただ単に残業代の未払いを正当化しているだけのことがほとんどです。
特に弁護士や法務部のリーガルチェックが行き届いておらず、労務管理がずさんな中小企業に多いです。
ごく一部の例外を除いて、全社的に残業代を支払わなくていいケースはありません。
(2)「定時に打刻しろ」と言われ、打刻後も残業させられる
定時に退勤の打刻をしろと言われ、定時に打刻しているものの、退勤の打刻後にサービス残業をさせられているケースがあります。
なお、記事後半で紹介しますが、このような場合でも、実際の残業時間を別途記録しているとそれが残業の証拠として認められることがあります。
(3)裁量労働制を悪用している
裁量労働制とは、業務遂行に労働者の大幅な裁量を認める必要がある一定の業務について、実際の労働時間に関係なく、一定の労働時間だけ働いたとみなす制度です(労働基準法38条の3第1項、労働基準法38条の4第1項)。
裁量労働制では、一定の労働時間働いたと「みなされる」ことから、割増賃金が発生しないと誤解している方も多いのですが、例えば次のような場合は、裁量労働制での割増賃金は発生します。
- 「みなされる時間」が法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)を越えている
- 法定休日に労働した
- 深夜労働をした
ところが、「裁量労働制だから残業代は出ない」といって、深夜労働をしようが、残業代を一律支払わないケースがあります。
また、そもそも実際には裁量労働制が適用される要件を満たしていないのに、裁量労働制であると主張する会社も多いため、注意が必要です。
(4)見込み残業(みなし残業)を悪用している
残業があってもなくても決まった時間分の残業代を支払う「固定残業代制度(いわゆるみなし残業・見込み残業)」という制度があります。
みなし残業ありの雇用契約をしている場合、規定の時間内(契約内容によって異なる)の残業であれば、みなし残業としてすでに残業代相当額が支払われているため、基本的にそこに残業代が上乗せされることはありません。
ただし、いくらみなし残業が付いているからといって、規定の時間を超える残業については残業代を支払う必要があります。
そのため、「定時に打刻しろ」と言われているケースと同じく、「みなし残業の時間内に収まるように打刻しろ」と言われるケースもあります。
また、みなし残業として支払われている残業代相当額が、労働基準法の定める最低限の割増賃金を下回っている場合には、残業時間が規定の時間内であっても、不足分の残業代を請求できることもあります。
(5)朝残業を悪用している
残業というと、言葉の通り「終業後も残って仕事をすること」と捉えてしまいがちですが、始業前に業務を行うことも時間外労働になることがあります。
始業前の業務は、「朝残業」と呼ばれることもあります。
「新人は30分前に出社しないといけない」、「10分前には始業しなければいけない」などと言われているケースや、始業前の機械点検など朝残業しないと業務に支障が出るにもかかわらず、その時間を時間外労働として打刻できない(許してもらえない)ケースがあります。
ただし、始業前に業務を行ったからといって、必ずしも残業と認められるわけではありません。
残業と認められるかどうかは、「使用者の指揮管理下に置かれている時間」といえるかどうかがポイントとなります。
裁判例では、鉄道会社の役務員が行う業務につき、次のように判断しています。
- 義務付けられていた始業前と退社前の点呼
⇒労働時間(=一定の時間を超えると残業)にあたる
- 頻度が低く、義務付けもされていなかった業務引き継ぎ
⇒労働時間に当たらない
(東京急行電鉄事件 東京地裁判決平成14年2月28日労判824号5頁)。
(6)自宅に仕事を持ち帰っている
残業時間の是正に力を入れている企業などが、オフィス等で残業をさせないために自宅に仕事を持ち帰らせてサービス残業させ、表面上は残業はないように見せるケースもあります。
残業として認められるためには、「使用者の指揮管理下に置かれていること」が必要です。
そのため自主的に仕事を持ち帰った場合だと、使用者の指示がない(=指揮管理下にない)として残業代を請求できないこともあります。
自宅での仕事は残業の実態が見えづらくなってしまうため、残業の指示を受けた内容を細かく記録しておくことが重要です(残業の指示を受けたメール、業務日報など)。
(7)管理監督者の制度を悪用している
労働基準法上、使用者は、労働基準法第41条第2号で定められている「管理監督者」に対しては、時間外労働と休日労働の割増賃金の支払義務がありません。 ただし、管理監督者でも、使用者は、深夜労働の割増賃金の支払義務があります(ことぶき事件 最高裁第二小法廷判決平成21年12月18日労判1000号5頁)。
それにもかかわらず、管理監督者であることを理由に、深夜に仕事をしても深夜労働の割増賃金を払ってもらえないケースがあります。
また、管理監督者であるかどうかは部長や課長などの肩書だけでは決まりません。
その実態が大事です。
すなわち、管理監督者とは、労働条件の決定その他の労務管理について、経営者と一体の立場にある人のことをいい、その実態があることが必要です(昭和22年9月13日労働基準局関係の事務次官通達17号、昭和63年3月14日労働基準局長通達150号等)。
肩書が部長や課長でも、平社員と仕事が同じ、出退勤の時刻を自由に決められないと言ったように管理監督者の実態がない場合には、「名ばかり管理職」の可能性があります。
使用者は、名ばかり管理職に対しては、時間外労働や休日労働の割増賃金の支払い義務があります(日本マクドナルド事件 東京地方裁判所判決平成20年1月28日労判1000号65頁)。
それにもかかわらず、名前だけ管理職にしておいて、残業しても残業代が支払われないケースがあります。
(8)1残業ごとに30分以下の残業は切り捨てなどの計算をしている
タイムカードは原則1分単位での記録が必要とされています。
しかし、10分未満や30分未満の残業時間の端数を1残業ごとに切り捨てて残業代を計算し、切り捨てた分がサービス残業になってしまっているケースがあります。
なお、1賃金計算期間(通常1ヶ月単位)での時間外労働、休日労働、深夜労働の合計時間数にて、1時間未満の端数が出た場合に、30分未満は切り捨て、30分以上は1時間で計算することは許されています(昭和63年3月14日基発150号)。
サービス残業による未払いの残業代を会社に請求する3ステップ
未払い残業代の請求を行うための流れを紹介します。
- STEP1 未払い残業代の証拠集め
- STEP2 未払い残業代の計算
- STEP3 未払い残業代を会社へ請求
(1)未払いのサービス残業代の証拠集め
まずはサービス残業の証拠を残すことが重要です。
証拠がなければ残業代の計算ができず、会社へ未払い残業代の請求をしても、なかなか相手にされません。
サービス残業の証拠となり得るのは例えば以下のものです。
ただし、証拠により証明する力が強いもの・弱いものがありますので、できるだけ広く集めることをお勧めします。
- 労働時間が分かる資料のコピー
……タイムカード
タコグラフ(トラック運転手などの方
日報
web打刻ソフトのスクリーンショット
出勤簿など
- 残業時間中の労働内容を立証する資料の写し
……業務日報
トラック運転手の方はタコメーター(タコグラフ)
- 会社の指示によって残業させられたことを示す資料
……残業を指示する書面・メールなど
上記のようにサービス残業の事実を客観的に記録しづらい場合は、毎日の勤務時間や残業を指示された時の内容、業務時間内では終わらない業務量の場合は業務内容などを詳細かつ正確にメモ書きに残しておくことでも、証拠として使える場合があります
ただし、他の証拠に比べると、自分で作成したメモの証明する力は弱いことが多いですが、他の証拠と組み合わせることで有利に働くこともあります。
ともかく、証拠は広く集めましょう。
他にも、以下の証拠があると、残業代の計算をするときに活用できますので用意しましょう。
- 雇用されたときの書類
……雇用契約書
労働条件通知書など
- 就業規則、賃金規程のコピー
- 給与明細
(2)未払いのサービス残業代の計算をする
集めた証拠を基に未払いのサービス残業代がいくらか計算をします。
計算方法は、記事前半でも紹介しましたが、次の通り計算します。
- 時間外労働
残業代=1時間あたりの基礎賃金 × 時間外労働の時間数 ×残業の種類に応じた割増率
- 休日労働
残業代=1時間あたりの基礎賃金 × 休日労働の時間数 ×残業の種類に応じた割増率
- 深夜労働
残業代=1時間あたりの基礎賃金 × 深夜労働の時間数 ×残業の種類に応じた割増率
なお、時間外労働には当たらないものの、所定労働時間(定時)を超える労働時間(法内残業)についても、残業代の支払対象となります
例:1日の実働7時間の会社において8時間の労働をすると原則として1時間の法内残業となります。
この場合、割増率は法律上定められていませんので、会社によって割増率が異なります。
会社が、所定労働時間の労働と同じ賃金単価(割増なし)を残業代に設定することも許されています。
(3)未払いのサービス残業代を会社に請求する
最後に未払いのサービス残業代を会社に請求します。
未払いのサービス残業代を請求する方法としては、主に次のものがあります。
- まずは会社と直接交渉する
- 労働審判を使う(裁判所での手続き。話し合いや審判が行われる)
- 訴訟を起こす
会社との直接交渉で解決すればよいのですが、会社が交渉に応じてくれない場合は、裁判所の労働審判や訴訟手続きを利用して、未払い残業代の支払いを求めることになります。
残業代の計算や請求は多大な労力と時間がかかり、技術も必要です。
また、STEP1の段階から弁護士に相談すると、今時点で取れる有効な証拠の集め方などのアドバイスや正確な残業代の計算なども可能です。
そのため、STEP1の段階から弁護士への相談をお勧めします。
【まとめ】サービス残業による残業代請求はアディーレ法律事務所にご相談ください
サービス残業は、無言の圧力や社内の雰囲気などで当たり前のように行われていることが少なくありませんが、労働基準法違反です。
また、サービス残業による未払いの残業代は会社に請求することが可能です。
未払いの残業代請求は、弁護士に相談するとスムーズに行くことが多いです。
サービス残業による未払いの残業代請求は、アディーレ法律事務所にご相談ください。
弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。